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給与デジタル支払いが解禁に!何が変わる?

会社員のほとんどは、入社時に給与を受け取るために銀行口座の情報を会社に提出します。
従来では普通のことで、銀行口座でしか給与を受け取れませんでした。

今後、「スマホ決済」「プリペイドカード」「電子マネー」などで給与を支払えるケースが増えてきます。

キャッシュレスを推進している政府により、主流の給与支払いが代わろうとしつつあります。

給与デジタル支払いとはどのような仕組みなのか?
企業側、労働者側のメリットやデメリットは?

給与デジタル支払いについて気になる情報を解説していきます。

給与デジタル支払いとは?

従来の給与支払いの原則

日本の賃金の支払いについては、労働基準法第24条の「賃金支払いの5原則」で以下のように定められています。

賃金支払いの5原則
1.通貨払いの原則
賃金は通貨で支払わなければならないと定められています。そもそも通貨とは、国内で通用する貨幣のことです。
誰もが想像する「お金」そのものです。
したがって、外国通貨や小切手などは賃金として認められていません。日本銀行券(お札)と貨幣(小銭)のみが認められています。

2.直接払いの原則
賃金は直接労働者本人に支払わなければならないと定められています。たとえば企業側と労働者との間に代理人や仲介人がいる場合などは違法となります。
労働者本人に直接賃金を支払わなければいけません。

3.全額払いの原則
賃金の全額を労働者に支払わなければならないと定められています。賃金の一部を差し引くことや、支払いを留保したりしてはいけません。
ただし法令に基づく控除(源泉所得税や社会保険料など)はこの限りではありません。

4.毎月1回以上払いの原則
賃金は最低で毎月1回以上の頻度で支払わなければいけないと定められています。
「今月は給料が振り込まれていない」という状況は労働基準法違反となります。

5.一定期日払いの原則
賃金は毎月決められた期日に定期的に支払わなければならないと定められています。
これは、毎月給料日が変動することによって労働者の生活が不安定になることを防止する目的で定められています。

「賃金支払いの5原則」が変わる?

給与デジタル支払いの実現によって、この労働基準法にある「賃金支払いの5原則」が変化します。

通貨支払いの原則も、スマホ決済アプリやプリペイドカード、電子マネーに支払われることになるので、原則を外れます。

新たに、原則が増えるもしくは変更となる場合が考えられます。

どうして給与デジタル支払いが可能になる?

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そもそもどうして給与デジタル支払いをする必要があるのか。
日本は諸外国に比べてキャッシュレス利用率が著しく低いという背景があります。
これを解決すべく、政府は2025年までにキャッシュレス決済の比率を全体の4割に引き上げようと様々な政策を行なっています。
たとえば、マイナンバーカードと連動する「マイナポイント事業」などもその一つです。

近年では交通機関の定期などもスマホアプリになっていたり、スマホ決済でポイント還元サービスを行なっていたり、支払い方法の主流が現金ではなくキャッシュレス決済になっています。

これに伴い、政府は行政サービスを含め、社会全体をデジタル化しようと推進しています。

給与がデジタルで支払われるようになれば、キャッシュレス決済の利用率向上に繋がります。

給与デジタル支払いの仕組み

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PayPayやLINEの「LINEペイ」などの銀行以外で送金サービスを提供する事業者を「資金移動業者」と呼びます。

その資金移動業者が「ペイロールカード」というものを発行し、そのペイロールカード宛に企業側は給与を支払います。

ペイロールカードとは、給与の振り込み先として機能するカードのことをいいます。
このカードを利用するために銀行口座等は必要としないのが大きな特徴で、ペイロールカードだけで電子決済や現金の引き出しができます。

企業から労働者へ給与が届くまでの流れとしては、まず企業側はペイロールカード宛に給与を振り込みます。
その入金されたペイロールカードを使い、労働者側は電子決済や現金引き出しをします。

これが普及してきた際は、ペイロールカードとスマートフォンアプリが連動して、より幅広く使えるようになると考えられます。

給与デジタル支払い導入による企業側のメリット

振込手数料を削減できる

給与デジタル支払いを導入した企業は、給与振り込みの際に発生する「振込手数料」を削減することが可能になります。
一件単位で見ると振込手数料は微々たるものに感じられますが、社員全員に発生していると考えると、毎月大きな費用になってきます。

給与デジタル支払いは、いわば「送金システム」と考えられるので振込手数料を削減することができます。

また振込手数料がかかることを理由に、給与支払い頻度を一定にしていた企業は、週単位や1日単位などで給与を支払うことが可能になるので、柔軟性が生まれ、企業側労働者側共にメリットとなります。

給与デジタル支払い導入による労働者側のメリット

1.銀行口座を持っていなくても給与を受け取ることが可能

給与デジタル支払いは銀行口座を必要としないので、受け取り方の幅が広がります。
特に外国人労働者にとって、日本国内で銀行口座を開設することは難しく、クレジットカード等も持つことが困難です。
給与デジタル支払いは銀行口座以外に給与を支払うことが可能なため、外国人労働者へも給与を支払えます。

これによって、外国人労働者を積極的に採用することも可能となり、労働力の確保に繋がります。

2.ATMで現金を引き出す手間が省ける

各々が普段使う決済サービスに給与が入金されれば、ATMでわざわざ現金を引き出す必要がなくなります。ATMが混んでいて、並ぶことが億劫という方も少なくありません。
スマートフォン一つ持っていれば、現金もキャッシュカードも必要なくなります。

3.給与を受け取るまでの期間が短縮される

派遣などの日雇い労働者やアルバイトの方は、労働した日から数日後に給与が支払われるケースが多くみられます。
従来の場合、給与を毎日日払いで支払ってしまうと振込手数料がその分多くかかるので、できるだけ月払いにすることが主流です。
しかしながら給与をデジタル支払いにできるのであれば、手数料を削減できるので1日単位や週払いなどで給与を受け取ることが可能となります。

世の中でのメリット

キャッシュレス

1.コロナ対策にもなり得る

今のご時世「人が触ったものを触れる」という行為に少なからず躊躇いがあります。

特に現金は不特定多数の人が触れることになるものの一つです。
誰が触ったものかも分からない現金はコロナ禍でなくても「お金は汚い」と感じる人も多い、ということが普遍的です。

その中で給与をデジタルで支払われるとなれば、現金を引き出す必要がなくなり、つまり現金を触る必要がなくなってきます。

コロナ対策として、コンビニやスーパーその他の店舗でもお釣りをトレーに置くなどの対策が行われていますが現金をお互いに触ることがなくなれば感染のリスクも少なくなります。

2.キャッシュレス化の世の中へ

諸外国に遅れをとっているキャッシュレス決済の普及率を懸念し政府が目指す「キャッシュレス化の世の中」を実現せるためには、この給与デジタル支払いが鍵となります。

消費行動は、給与がないとできません。そのため給与がデジタル化されていれば消費も自ずとデジタル化、つまりキャッシュレス決済で支払うことになります。

給与デジタル支払い導入のデメリット

1.セキュリティの不安

個人情報だけでなく、保有しているアプリ内の残高への不正アクセスなどに不安があります。
特に全国的に新しい政策や取り組みをする際には、詐欺が多発します。
これは世の中が「まだよく分かっていない状態で使用する」からです。
セキュリティが銀行と同等の程度を担保されていないと、受け取る側は使用を躊躇います。

2.二重運用の発生

給与デジタル支払いは労働者側にとってもメリットではありますが、だからといって全額をデジタルで受け取りたい人は中々いないと考えられるので、給与の一部をデジタルで、他は銀行へ振込を依頼する場合が普及するまでは多くなると想定されます。

そうなると労働者側は便利で使いやすいですが、企業側としては余計に手間がかかる上、振込手数料は結局削減されないままになりかねません。

キャッシュレスがもっと進めば、次第に改善されますが時間はかかります。

3.資金移動業者が倒産した場合

何よりの懸念点はPayPayやLINEpayが倒産したら、保有している残高や今後の給与受け取りをどうすればいいのか。

もし倒産した場合でも資金の100%保全が確保されます。
資金移動業者が預かったお金は法務局に供託されているので、国が保障してくれます。

ただし、残高がすぐに返ってくることはなく最低でも3ヶ月ほど経過した後に支払われることになると考えられます。
もし生活の大部分をデジタルの決済サービスに頼っていた場合は返却されるまでの間、国がどう保障してくれるのかは今後の課題となりそうです。

給与の受け取り方法・ツール一覧

現在公表されている給与デジタル支払いツールは以下になります。

1.エニペイ

エニペイ

出典:エニペイ

【特徴】
1.給与を自由に支払える(受け取れる)
口座を目的に応じて使い分けている労働者も多いと考えられます。
そのため、受け取る側も生活費の口座と貯蓄の口座などに給与を振り分けることができます。
そのため、従業員への福利厚q生に繋がるので従業員の定着にもなります。

2.振込先は労働者が各自が設定
給与をどの口座や決済サービスに振り込むかは従業員が各自で設定します。
これにより、企業側の事務作業の手間が削減できます。

3.振込手数料の削減
企業側は従業員の一人ひとりに給与を支払う際その人数分に振込手数料がかかりますが、エニペイを使用すれば1回の振込手数料で済みます。

2.TIS

TIS

出典:TIS

【特徴】
1.人事給与サービスと連携可能
企業が導入している人事給与サービスと連動できるので、自動化で給与支払いができます。
これによって給与計算等の事務作業の手間が省けます。

2.複数のデジタルマネーに対応可能
従業員が自分の使いたい電子マネーを選択できるので、その希望に合った振込先に企業側は送金することが可能になります。

その他受け取り可能になり得るツール

※公表されているものではありません
※可能性があるものを表記しています

QRコード決済サービス
・PayPay
・LINEPay
・メルペイ
・d払い
・auPay
など。

電子マネー
・Suica
・PASMO
・ICOCA
・nanaco
・WAON
・Edy
など。

仮想通貨
・ビットコイン
・イーサリアム
・リップル
・ライトコイン
など。